Ocean Way Studios Report

03/31/2001    投稿者:

日本公演実現キャンペーンの署名を届けるために訪れたロサンゼルスでTP&HBゆかりの場所をたずねました。

1990年代以降のTP&HB作品が数多くレコーディングされた「Ocean Way」。伝説的な”Mary Jane’s”セッションが行われたのもここでした。「Sound City Studios」同様に、こちらもご厚意でスタジオを見学させて頂くことができました。

原稿は 2001年2月に公開した際の内容に 若干加筆修正していますが、概ね当時のままです。時間の経過による事実関係の変化ついては何卒ご容赦ください。

Studio Report-2:Ocean Way Hollywood~Cello Studios

text by Shigeyan / 訪問日 : 2001年 2月 2日

見学の指定時間は午前10時でした。Hollywoodを貫く大通り Sunset Blvd.に位置する「Ocean Way Hollywood」の入り口は、建物内部が分からないように厚い扉で覆われていました。頭上には監視カメラがあり、ただでさえ緊張しているのに、その気持ちが増強されるようでした。そういえば昨日 Shivaun から「Sound City もそうだけど、Ocean Wayも治安が悪いところにあるので…。間違っても music business の華やかな場所とは言えませんよね」とは聞いていましたが、確かにその通りです。

深呼吸して呼び鈴を鳴らしたところ、カギが開き建物内へ入れてもらいました。中にはスタッフなのかミュージシャンなのかよく分かりませんが、4~5人がコーヒーを片手に談笑中。受付嬢が「担当のKellyはまだ見えてないので…そこのソファーに座って待ってて下さい。もしよかったらコーヒーも自分でどうぞ」と言ってくれました。

しかし!回りの壁を見渡すとゴールドディスク、プラチナディスクだらけです。昨日のSound Cityにも驚かされましたが、ここは圧巻です。それだけで貸しレコード屋が出来そうです。

受付嬢指定のソファーに座ったはいいものの、頭上にRoy Orbison (*1)『Mystery Girl』、Don Henley (*2)『Building The Perfect Beast』、TP『Wildflowers』が光り、片方ではDavid Lee Roth (*3) 『Skyscraper』があります。さらにはMadonna (*4)『Like A Prayer』がエロティシズムを発揮し、Lionel Richie (*5)がスケベおやじ風な微笑みをしてます。そんな場所でコーヒーなんか飲めませんよー。

飾られていたゴールド&プラチナディスクのごく一部
TP 『Wildflowers』
Roy Orbison 『Mystery Girl』
Lionel Ritchie 『Dancing on the Ceiling』『Can’t Slow Down』 他1枚
Michael Jackson 『Dangerous』
The Rolling Stones 『Bridges To Babylon』
Mariah Carey 『Rainbow』
Eric Clapton 『August』
Elvis Costello 『Spike』
Tonic 『Lemon Parade』
Don Henley 『Building The Perfect Beast』
Johnny Cash 『Unchained』
Green Day 『Warning』
David Lee Roth 『Skyscraper』
OST 『Bodyguard』
Madonna 『Like A Prayer』
Bangles 『Different Light』
Wilson Phillips 『Wilson Phillips』
Neil Diamond 3枚
Kenny Loggins
他モータウン多数

*1) Roy Orbison (1936-1988)
1950年代にロカビリー歌手としてデビューし、60年代に”Oh, Pretty Woman”などのヒット曲を連発。80年代に The Traveling Wilburys でカムバックを果たし、TP&HBの全面バックアップで作成された『Mystery Girl』の発表直前、残念ながら急死しました。

*2) Don Henley
Eagles のドラマー/シンガー、1982年の解散後はソロ・アーティストとして活躍。いずれの発表作でもTP&HBのメンバーが深く関わり、最新作『Inside Job』では Stan Lynch がプロデュースを担当しています。

*3) David Lee Roth
Van Halen の初代ヴォーカリスト。1985年脱退後は腕利きミージシャンを集めソロ・アーティストとしてデビュー。1作目『Eat ‘em and Smile』、2作目『Skyscraper』は大ヒットしましたが、メンバーチェンジ後の3作目以降は鳴かず飛ばずです。

*4) Madonna
1983年のデビュー以来セクシーさを売り物にし、ヘソ出しルック、ヌード写真集、結婚・離婚・出産などセンセーショナルな話題の提供にも事欠きません。最近でもイギリスでの結婚式が大きな話題となりました。

*5) Lionel Richie
モータウン出身バンド The Commodores のヴォーカリストでしたが、1981年に独立、ソロ活動を始め大ブレイク。売り出し当時のとんねるずがTV番組で「ライオネル・リチ男」なるキャラクターで笑いを誘っていたのも今となっては懐かしい話です。

落ち着かない我々を見かねたのか、到着の遅れている担当者の代理として Ernie なる男性が案内を始めてくれました。プラチナディスクが延々と続く廊下を抜け、「ここが “Sinatra Studio” だよ」と通してくれたところで、タイミング良く担当者 Kelly が登場。何と、わざわざ日本人スタッフ女性を引き連れて、通訳が必要か確認してくれたのでした。結局、彼女の手を煩わせることなく見学させてもらいましたが、その気遣いには今さらながら感謝です。

で、肝心のスタジオです。”Sinatra Studio”という別名をとるStudio A、名前の由来を想像しただけで鳥肌が立ちました。さらに驚くことは、売れっ子プロデューサー/エンジニア Jack Joseph Puig (*6)が5年間にわたりずっと貸し切り状態にしていることでした。
「Jackがここを使い始めてレコーディングを担当しはじめて、その曲がヒットして…もうそれ以降は歴史ですよ。彼は忙しくてここを出るヒマがないんです。ここから傑作を絶えず創ってます。The Black Crowes、最近だと Hole (*7)、The Verve Pipe (*8)、Robbie Williams (*9)…キリがないです。」

で、スタジオを見るともう唖然。まずはコントロール・ルーム、宇宙船のコックピットかと思うくらい新旧のレコーディング機材が並べられ、The Beatles (*10)の写真のほか、壁には Jimi Hendrix (*11)の画が…。まさに要塞です!

誰の録音をしていたかは忘れてしまいましたが、だだっ広い木張りのスタジオにはギターやらエフェクターが所狭しと置かれ、絨毯やランプをはじめとする独特のデコレーションが神秘的なムードを作っていました。やはりここでも、お香の匂いに酔ってしまいました。

*6) Jack Joseph Puig
プロデューサー/エンジニア。アメリカン・ロック業界のその道では頂点にいると言っても過言でもないでしょう。後述の Glyn Johns の弟子らしいです。一体どれだけの音が彼の手によって磨かれたのでしょうか。Bette Midler、Glenn Frey、 Dire Straits、Eric Clapton、Jellyfish、The Black Crowes、Green Day、 The Counting Crows、Hole… 果てしないです。

*7) Hole
Courtney Love 率いる女性バンド。自殺した Kurt Cobain (Nirvana) の妻であったことは言うまでもないでしょう。そもそもバンド名もスゴいですし、ナイスバディをステージ上で惜しげもなく披露するなど、話題にも事欠かないです。代表作は『Celebrity Skin』(1998年)。

*8) The Verve Pipe
1992年ミシガン州にて結成。地道なツアー活動を経て録音された2 枚目『Villains』(1996年)を発表、シングル曲”The Freshmen”がNo.1ヒットとなりました。

*9) Robbie Williams
1990年代前半に活躍したイギリスのアイドル・グループ Take That のメンバー。1995年脱退後はソロ・アーティストとして活躍、最新作は『Sing When You’re Winning』(2000年)です。

*10) The Beatles
解説しなくてもよいですよね?そういえば『For Sale』のジャケットなど初期の写真が多かったです。サイケデリック期以降のモノは見かけませんでした。

*11) Jimi Hendrix
これまた解説不要でしょう。彼の肖像画がやたらと目立っていて、お香の匂いとも完璧にハマり、自分のアタマの中では”Voodoo Chile”が鳴り響いていました。

さて、ゴールド&プラチナディスクをさらに掻き分け奥へと案内されます。そして、案内されたのはStudio B。

通常はオーケストラなどの生楽器レコーディング時に使われるとのこと、確かにリヴァーヴがキレイにかかります。音のカブリを防ぐためのヴォーカル・ブースがある他、ドラムについては頭上に傘型のドームがあり、それが上下して遮音する、という構造でした。しかしそれを見て焼肉屋の空気清浄器を思い出したのは自分だけしょうか。

スタジオ内にはさらにハモンド・オルガンが鎮座する別室があり、そこには巨大スピーカーが設置され大爆音で鳴らされる準備をしていました。

ここまで来ると、興奮で奇声を挙げるか、スゴさに圧倒され言葉を失うか、の二者択一しかありません。自分がどんな声を出していたのかは全く覚えていませんが、Studio Bを出て壁にある写真をKellyが見せてくれたところ「おーーー~~っ」と言葉を発したのは覚えています。
「数年前からアーティスト達の写真を撮り始めて…ここに飾ってるんですよ。」

壁を見たところ、際立っているのがMick Jagger と Keith Richards (*12)のレコーディング時ツーショット。『Bridges To Babylon』録音時でしょうか。カッコ良過ぎです!その他には特に Eric Clapton (*13)+Marcus Miller (*14)、 Sugar Ray (*15)、Steve Ferroneの写真が光ってました。

さらに反対側の壁を見ると、これまた鼻血を流しそうな面々…Nat King Cole (*16)、Bing Crosby (*17)、David Cassidy (*18)、Liza Minnelli (*19)、 Sammy Davis, Jr.(*20)、Dean Martin (*21)、Frank Sinatra (*22)の写真が飾られています。ああ。このスタジオはまさに音楽の歴史です!

しかし、これに圧倒されてはいけません。TP&HBファンとして、どうしても聞きたいことがありました。セッションおたく(?!)Benmontがいつも鍵盤を弾いている本スタジオ、彼は果たしてどの位の頻度で出没してるのでしょうか?そう言ってる今もどこかでセッションしてるのでは?!
「Benmont?最後に来たのは去年ですね。今年になってからは来てないです。いや~、いい人ですよ。」思わず拍子抜けしました。「Benmontの部屋」があるんじゃないかと(勝手に)思っていたのですが、さすがにそれはなかったようです。

Ocean Way を使った日本人グループ(*23)の話をしたりして、次第に緊張もほぐれてきました。我々のキャンペーンの話に及ぶと、Kelly は色々と質問をしてきて、「East End Management には行った?じゃあ Mary とは連絡取った?友達なのよ。」「皆さんの気持ち分かりますよ。私だって好きなバンドがいたら、飛行機に乗っても追いかけますからね。実現するといいですね。」などなど、ねぎらいの言葉をかけてくれるのでした。何て良い人なんでしょう。

「でもね、実は TP&HB はここで録音したんじゃないんです。道をちょっと歩いたところにある Cello Studios なんです。元々は Ocean Way の別館だったんですけど経営者が変わっちゃって…ちょっと待っててね。向こうの担当者に連絡しておくから。そうそう、そこには”Pet Sounds” Studio もあるから楽しみにしててね!」

*12) Mick Jagger、Keith Richards
言うまでもなく、The Rolling Stones のお二人です。一本のマイクにテレキャスターを抱えた Keith と Mick が寄り添う大傑作ショットでした。『Bridges To Babylon』には Benmont が参加しています。

*13) Eric Clapton
解説は省略します。『August』は本スタジオが使われたようです。 TP&HB のドラマー Steve Ferrone は90年代初頭、彼のバンドで演奏していました。

*14) Marcus Miller
ベーシスト/プロデューサー。Miles Davis に見い出された独特のスラップ・ベースは全世界にセンセーションを巻き起こしました。想像ですが…自ら演奏・プロデュースしたサックス・プレイヤー David Sanborn のアルバムに Eric Clapton がゲスト参加しています。写真はこのときのものでしょうか。

*15) Sugar Ray
ロサンゼルス郊外出身のロックバンド。DJを加えたパンク・スタイルから始まりましたが、ポップなセンスが大ブレイクし、今やすっかりキャッチーなメロディを得意としています。最新作は『14:59』。

*16) Nat King Cole(1917-1965)
1940年代はジャズ・ピアニストとして、50~60年代は甘い声を持つヴォーカリストとして二つの巨大な才能を持ったアーティスト。誰もが”Mona Lisa”の甘い声にはとろけることでしょう。肺癌で47歳の短い生涯を閉じました。

*17) Bing Crosby(1903-1977)
ラジオが全盛期の1930~50年代、トップシンガーとして業界に君臨。最も売れたシングル曲”White Christmas”については語るまでもないでしょう。

*18) David Cassidy
1950年生まれ。1970年代にTV番組「The Partridge Family」の主人公としてアイドル的存在となり、一世を風靡したシンガーです。

*19) Liza Minnelli
女優 Judy Garland を母に持ち、子役として映画デビューを飾りました。ドラッグ中毒を克服して、現在に至るまで女優・シンガーとして活動しています。

*20) Sammy Davis, Jr.(1925-1990)
1950年~70年代に歌手、俳優、舞台パフォーマー、コメディアンなどとして活躍し、人種を越えて愛された、まさしく”artist”です。

*21) Dean Martin(1917-1995)
Frank Sinatra、Sammy Davis, Jr. とともに1950年~70年代の映画、テレビ、音楽においてマルチな才能を発揮したエンターテイナーです。

*22) Frank Sinatra(1915-1998)
まさか”My Way”を知らない人はいないでしょう。彼のことを「20世紀で最も偉大なミュージシャン」と呼ぶ人も多いです。約50年もの間、ジャズ・ポップス・ロックなどあらゆる分野で現役ミュージシャンとして活動し続けました。

*23) B’z のことでした。

そう話した Kelly は電話口へ走り、Jen という女性へアポをとりつけてくれました。そうして…一旦外に出て歩くこと約100m、そこに Cello Studios がありました。入り口は一見オフィス・ビルにしか見えませんが、その中にはスゴい空間が待ち受けていました。

案内役の Jen はやたらと早口で、聞き取るのが大変でしたが、よーく聞いてみるとスゴいことを言ってます。

「Studio 1は使用中なので見せられないんです。今、Glyn Johns (*24)がサントラの仕事をしてるので…」とか。
えーー~~っ、あの The Who 『Who’s Next』やThe Rolling Stones 『Exiles On Main Street』を手がけたプロデューサーが至近距離に?!

しかし、そこで動揺する余裕すらなく、Jen は我々を TP&HB ご用達の Studio 2 へ案内してくれました。

ここがあの部屋です。そう、”Mary Jane’s Last Dance”が録音され、特徴的な壁が写真で印象的だった部屋です!

決して広くはないのですが、何故かロフトがあったり、”Jim Scott”(*25)、”Jackson Browne”(*26)と記された機材ケースが置かれています。

専門的に言えば、「デッド」な音響…部屋の残響音が少なくカラッとした音なのですが、ドラムにライヴ感を与えるために段を設けて共鳴するスペースが設けられてました。このようなさりげない音響的工夫が、TP&HBマジックの一要素なのかもしれません。

*24) Glyn Johns
1960年代から活躍し、未だに現役バリバリのプロデューサー。The Who、The Rolling Stones の業績だけでも偉大過ぎるのに、他に手がけたアーティストは Linda Ronstadt、Eagles、Bob Dylan、Faces などなど…。

Ocean Wayで録音された作品  『Wildflowers』 "Mary Jane's Last Dance"

*25) Jim Scott
エンジニア。TP&HB 『Wildflowers』での仕事をはじめ、最近では Red Hot Chili Peppers 『Californication』(1999年、Ocean Way録音)、Rage Against The Machine 『Renegades』(2000年、Cello Studios録音)などを手がけています。

*26) Jackson Browne
特に1970~80年代に絶大なる人気を誇ったシンガー・ソングライター。Eagles のデビュー曲”Take It Easy”の共作者としても有名です。Scott Thurston は1990年代の彼との共演を通じてセッションプレイヤーとしても名を上げました。

続いては、Studio 3… 別名「”Pet Sounds” studio」です。レコーディングは行われておらず、機材が倉庫の如く無造作に置かれていました。The Beach Boysをこよなく愛する同行者 TOSHIさんの興奮ぶりが痛いほどに伝わってきます。

Studio 2とは対照的に、リヴァーヴが良く効く部屋で、「あのコーラスがこの部屋で歌われたんだ…」と考えると、頭の内にレコード通りのハーモニーが再現され、まるでそれが今現在歌われているように錯角してしまいました。

『Pet Sounds』 録音風景

(*27) The Beach Boys
Brian、Dennis、CarlのWilson3兄弟を中心とし、1961年デビュー。サーフ・ミュージックの流行に乗じて、サーフィンをテーマにしたキャッチーなメロディでその評価を確実なものとしました。1966年発表の『Pet Sounds』を生涯のベストアルバムとして選ぶ人は数え切れません。

Sound Cityが「friendly」なスタジオとしたら、Ocean Way+Celloは「professional」なスタジオと言って良いでしょう。星の数ほどいる全世界のミュージシャンのうち、ごくごく限られた最高レベルの者だけが立ち入りを許された音楽業界の最高峰… 聖地なのでしょう。滞在時間は Ocean Way、Cello ともに30分前後でしたが、密度はあまりにも濃すぎました。

★ 終わりに

スタジオ見学を兼ねたキャンペーン活動は無事に終わりました。笑みがこぼれるというよりは、満足感・充足感で放心状態で、言葉が出ませんでした。

見学を終わって車に乗り、カーステレオで”Mary Jane’s Last Dance”をかけたところ、ギターソロの間、青い空の中を鳥の大群が舞っていきました。あの光景は一生忘れることはないでしょう。

最後になりましたが、本キャンペーンを盛り上げてくれる皆様一人一人にお礼を申し上げます。そして、その思いを通じて当キャンペーンの趣旨を理解頂き、快くスタジオを見学させて下さった両スタジオの皆さんに感謝の気持ちで一杯です。このような方々を通じて、キャンペーンが話題となり、メンバー達にその思いが少しでも伝われば… と甘いながらにも考えています。