まさか、こんな日が来るとは!!!
第一報を耳にして誰もが驚いたことでしょう。The Dirty Knobs の全米ツアーに Stan Lynch が代役として参加し、しかも TP&HB ナンバーを多数披露する。
一体全体何があったのか、その経緯を知りたいと願っていましたが、タイミング良く Rolling Stone 誌が2人にインタビューしてくれました。
Mike Campbell and Stan Lynch on Their Surprise Heartbreakers Reunion
(記事の構成上、インタビュー形式に再構成しています)
Stan Lynch が Heartbreakers を脱退したのは1995年。その後、Tom と会ったのは2002年のロックの殿堂でのセレモニーのときだけ、Mike Campbell とのコンタクトは Tom が亡くなった少し後で2017年に短い電話があっただけだった。2021年に Mike から電話がかかってきた際は少なからず驚いた。その内容は The Dirty Knobs のツアーで(他のツアーがあって参加できない)ドラマー Matt Laug の代役を打診するもの。「ツアーで演奏して欲しいんだ。可能かな?」
Mike からツアー参加の依頼を受けて、最初は断ろうと思ったのですね。
SL:俺は本当に良い人生を送っている。新しい人生だ。ドラマーをやるのは30代のとき以来、30年も前だ。ドラマーであるためのユニフォームや感情、形而上的なものはすべて卒業した気がしていたんだ。Mike から話を聞いたとき「俺は多分上手くできないよ、でも誘ってくれてありがとう」って言いそうになったよ。
でも、実際に話してみると、その企画を内諾している自分に気がついた。誰もがっかりさせたくないんだ。そして、自分の過去において重要だった人たちに対して、ドアを閉ざすことはできないよ。Mike は昔の俺に大切な役割があった人だ。彼のことは俺が15歳のときから知っている。どういう形であっても、自分の人生に関わるには長い話だよね。
Dirty Knobs のアルバム2枚分の曲を学んだのですね。
SL:それは俺にとって新たな経験だった。他の人の(ドラム)パートを練習したことはなかったんだ。
長年のドラマー仲間、Kenny Aronoff と Gregg Bissonette にアドバイスを求めたのですね。
SL:彼らは大爆笑してたよ。「アルバム2枚分の素材をどうやって消化するんだ?」って僕は聞いたんだ。(セッションドラマーとして百戦錬磨の)彼らは「それは1日で出来る」と言うんだ。Bissonette は「楽譜にするんだ。勉強
するんだよ」ってね。
『Full Moon Fever』のツアーもソロ作品を Heartbreakers が覚える、という試練がありました。あなたは声高に異議を唱えていました。当時の緊張があなたの脱退に影響していましたね。
SL:もう少し違う対応をしていれば良かった。言うべきことを言わなかったということが沢山あった。コミュニケーション不足と未熟さが多々あったんだ。あんな風になる必要はなかった…後悔しているよ、本当にいっぱい。特に Mike に対しては、もっとうまく対処できたはずだ。だから、後悔はしている。でも、後悔でとどまることはないよ。そこから学ぶだけだ。
Mike も同じように感じているのですね。
MC:Stanも僕も、家庭の問題があちらこちらであったんだ。そのすべてには触れないけど、僕たちは若かったし馬鹿だったし、テストステロン(ホルモン)が多すぎたんだ。でも、その多くは落ち着いてきたよ。(Stan という)友人を取り戻せて本当に良かったよ。
数ヶ月前、ロサンゼルスにある Mike のホームスタジオ Knobvilleで20年ぶりに会ったんですね。
MC:僕たちはお互いに謝罪したんだ、馬鹿でガキで愚かだったことを。(謝った後で)それを乗り越えたのさ。彼がとても紳士的になっていて、僕にとって本当の兄弟になったことがわかったんだ。
音楽的に相性が戻ってくるまでの時間は、思っていたより短かったのですね。
MC:僕らには同じような音楽的拍動がいつもあるんだ。昔のレコードを聴くと Stan と僕は(全体を)プッシュしてるし、お互いハマっているし、僕たちが曲を動かしていることが多かったんだ。それがまだ残っているのが嬉しかった。多くの時間、僕は自分の演奏に集中しているんだけど、振り返ってみると「なんてこった、Lynch だ!あいつは燃えてる!」って思うんだ。
SL:何を演奏しているかなんて、どうでもいいんだ。顔を上げて(自分が座る)ドラムセットの前に Mike Campbell のケツが見えたら、家にいるようなものさ。
Stan が参加した初日は Dirty Knobs の2作に加えて、”Refugee”、”Runnin’ Down a Dream”、”Southern Accents”、”You Wreck Me”などの Heartbreakers の曲も演奏しました。日が経つにつれ、”Listen to Her Heart”、”When the Time Comes”、”Casa Dega”なども含まれるようになりました。
MC:僕はシンガーとしてまだ修行中だ。Stanは一度も僕が歌うのを聴いたことがなかった。Stan は Tom と一緒に歌うメインのハーモニー・シンガーだった。僕の声には Tom のニュアンスがあると思うんだ。だから、Stan とはとても相性がいいんだ。あるとき、二人とも笑顔になっていって「これはいけるぞ。これをもうちょっとやろうよ」と言ったよ。
ライヴのウォームアップで TP&HB が昔よく演奏していた”Stories We Could Tell”を歌ったのですね。
MC:僕たちは本当によく合うハーモニーを奏でたんだ。そうしたらベースの Crawdaddy (Lance Morrison) が「この曲もショーで演奏したほうがいいよ。二人だけで演奏すると、特別な雰囲気が出るよ」と言ってくれたんだ。それで、ショーの最後をこの曲で締めるようになったのさ。とても特別な瞬間になったし、観客も僕らの間にある愛を感じ取ってくれたんだ。
もう一つの見どころは”Southern Accents”です。ツアー中盤で歌詞を「There’s a dream I keep having where my mama comes to me」から「There’s a dream I keep having where my brother comes to me」に変えましたね。たった一語の変化ですが、観ている人たちに大きな衝撃を与えました。
MC:この間、この曲の途中で下を見たら、前の方で泣きじゃくっている女性がいてね。彼女は感極まっていたよ。僕は跪いて、彼女の手を取って「大丈夫だよ」と言ったんだ。人々にとって(Tomの)感覚をもう一度味わって、ポジティブな形で Tom を再認識することはちょっとした癒しと区切りになると思うんだ。
Stan にとっても、友人のために悲しむ機会になりましたね。
SL:(脱退後に再会した2002年の)殿堂入り(の式典)では、Tom と話もしなかったんだ。でも、リハーサルで会話が途切れたことがあって。俺は彼をつかまえて、伝えるべきことを伝えたんだ。彼の最後の言葉は「お前の言って
ることは聞いているよ」だった。
2017年に Tom の死を聞いたとき、あなたはショックを受けたものの完全に驚いたわけではなかったのですね。
SL:あのバンドに限界を越える能力があることは知っていたよ。それとともに究極の代償を払うこともあるだろう。(Tomに)何が起こったかを聞いたとき、俺は文字通り(立てなくなって)膝をついたんだ。「クソっ」と膝をついて、空を見つめていた。(Tomに)「ありがとう」と言うべきか、「くそったれ」と言うべきか、分からなかったよ。ただ、彼らみんなが俺の人生にいてくれた、その経験に感謝するしかないことは分かった。俺(の人生)を大きく変えたし、俺が参加したことで、彼らも大きく変わったと思う。
Stan は(バンド内の不和が起きても)Benmont Tench とは30年間良い関係が続いていて、いつかグループの存続メンバー全員と何らかの形で演奏したいのですね。
SL:俺の知る限り、4人のオリジナルメンバーは全員元気だ。彼らは俺よりずっと(Tom と)一緒に長い距離を走っているから、(演奏することが)彼らにとってどういう意味を持つかはわからないけど、(集まれたら)俺にとっては嬉しいことだ。
一方で、Mike はそうする準備ができていないと思うのですね。
MC:まだ、気持ちがそこまでいかないんだ。一人か二人ならまだしも… 全員となると… Tom なしで僕たち全員が集まると、部屋に大きな穴が空いてしまうんだ。それで自分自身がどう感じるかは分からない。築き上げた価値も台無しになってしまうよ。僕はバンドとして築き上げた価値をとても誇りに思っているんだ。それを安っぽくしたくないし、薄めたヴァージョンをやりたくもないんだ。
Heartbreakers がゲストシンガーと共演する一回限りのトリビュート・ショーの話もありましたが。
MC:想像すらできないな。自分が優れたシンガーでないことは承知しているけど、伝えたいことは伝えられるんだ。僕にも(原曲の)訛りや抑揚があるし、曲がどう解釈されるべきかを理解しているんだ。いろいろなシンガーに曲を演奏してもらうことも考えはしたけど、どうしてそれをしなきゃいけないの?僕はむしろ本物のシンガーで昔の曲を聴きたいんだ。
2人のツアーは6月26日のコロラド州アスペンでのショーを最後に終了しますね。
SL:また(Mikeと)一緒に演奏する機会があることを望んでいるし、何が起きてもいい準備はできているよ。(今回の共演で)最高なことは、本当に本当に長い人生という小説にブックエンドを置けたことだ。(この共演が)良い章になったよ。俺たちがクソ爺になった頃にまた一緒になって、クラブで演奏するとはね。(予想外すぎて)こんな(展開がある)ことに賭ける気すらなかったよ。
【Depot Street: vol.282 & 283】2022年6月11日 & 7月11日 翻訳:Shigeyan
Stan Lynch は 4月23日のボルダー公演から6月26日のアスペン公演まで27公演参加