Mike & Benmont、Bob Dylan との共演の裏側 (2023)

2023年9月23日(土)に開催された<Farm Aid 2023>で Bob Dylan が突然ステージに登場して3曲演奏。しかも、そのバックを務めたのは Mike Campbell & The Dirty Knobs に Benmont Tench。Dirty Knobs の現在のドラマーは Steve Feronne なので、3人の Heartbreakers が Dylan と共演したことになります。ファンとしては想像を絶するスゴイことが起こりました。

この世間をあっと驚かせた Farm Aid 出演について、The Dirty Knobs のベーシスト Lance Morrison が詳しく語っています。Dylan はもちろん、Mike や Benmont のインタビューがない中でこれはかなり貴重です。それではサプライズ出演の裏に迫っていきましょう。

Behind the Scenes of Bob Dylan’s Farm Aid Surprise – Lance Morrison インタビュー

Flagging Down the Double E’s(2023年9月27日公開)

Lance Morrison(LM):1ヶ月もないよ。ほんの2~3週間前だと思うけど、事務所から連絡があったんだ。Bob Dylan が Mike に電話をかけて、Farm Aid のためにバンドを組むよう頼んできた、ってことだった。それで、Mike は (The Dirty) Knobs を使うつもりだった。もう、青天の霹靂だったね。
僕らはツアーの1公演を延期しなければいけなかった。コンサートを演って翌日に飛行機でインディアナポリスに行く必要があったから、移動は結構ストレスだったよ。着いたらすぐにサウンドチェックに行って、翌日が本番で、(本番翌日の)日曜日は起きたらニューヨーク経由でコネチカットへ飛び、その夜にコンサートをやったんだ。

LM:その通り。もちろん、Mike は Benmont にも参加してほしかったのさ。Benmont は最高だし、Bob との長い付き合いもあるし、だから彼がいてくれたのはとても助かったんだ。

LM:そうだよ、うん。金曜日に飛行機で入って、その夜にサウンドチェックをしたよ。

LM:2~3週間前に、Mike のところで何回かリハーサルしたよ。

LM:Bob も来たよ。彼に会うのも彼の曲を演奏するのも、その時が初めてだったんだけど、とにかく凄いことだね。
でも(Farm Aid は予告なしの)サプライズでの登場だった。普通、あの規模のショーだったら、全体リハーサルとか衣装も着たリハーサルがあるものなんだ。実際はそれよりもすごく簡単なものだったよ。サウンドチェックはただステージに上がって、みんなの立ち位置を確認して、曲をもう一度確認するだけだったんだ。リハーサルをやっていても、Bob はいつもインスピレーションを受けたりクリエイティブだったりで、何かを思いつく(ためにリハーサル通りにはいかない)からね。
“Maggie’s Farm”はサウンドチェックでキーを変えたと思う。彼は変えたキーの方がやり易かったと思うよ。

LM:何をやるか、大雑把なことは決まっていたよ。”Maggie’s Farm”がそうだし、”(Positively) 4th Street”もそうだった。”Like a Rolling Stone”は話し合ったけど、そう決まらなかったんだ。だから、僕たちはいくつかの曲を準備してたよ。どれも彼の昔の代表曲だ。なぜ最初のいくつかの曲が選ばれたのかは分からない。”Maggie’s Farm”はテーマ的に合ってたね。確かに理にかなっているよ。

LM:その通り。Farm Aid だったからね。これは演らなきゃいけないよね。それで原曲のアレンジを全部覚えたんだ。当たり前だけど、全て秘密にしておくように言われたよ。Dylan の大ファンの仲の良い友達には話したけど、秘密だと誓わせた。彼らは「Bob はいつもアレンジを変えるよ」とか言ってね。だから、どんなことが起きても良いように考えを自由にして、何が起きるか見てみようと覚悟して臨んだんだ。でも、原曲にかなり近いアレンジで曲を演奏できたから、良かったよ。

LM:いや、2~3日やったよ。

LM:ああ、そうだと思う、けど結構ルーズだったよ。”Maggie’s Farm”は一番最初にリハーサルしたのかな。アレンジは同じ感じだけど、最終的に演奏したのとは少し雰囲気が違うんだ。Bob は原曲と同じように演りたくなかったんだ。彼が求めていた感覚で、テンポとかを変えながら演奏したよ。曲の細かいアレンジを決めるときでも、何か特別なもの、何か違うものを見つけようとするんだ。何回か脇道に逸れて違う曲を演奏したこともあったけど、いつも元(の曲)に戻ってきたよ。

LM:うん。リハーサルで Bob が思いついたんだ。リハーサルのたびに、あの小さな部分が変わったり変形したりしたけど、彼はそれを貫いたんだよ。あれは役に立ったね。あれは、僕たちにとって曲が終わりに向かっていくよ、という合図みたいなものだったんだ。

LM:ああ。彼が最近ギターを弾いていなかったことを僕は知らなかったんだ。だから彼が来たとき、最初にしたことはギターを持つことだった。彼のために何本かギターが用意されていたよ。リハーサルで彼は立ってギターを弾いてたけど、僕にはそれが普通に見えたんだ。ギターを持つ(いつもの)Bob Dylan、という感じで。僕がいつも見てきたのと同じようにね。
ショーが終わってホテルの部屋に戻って(周りからの)反応が返ってきて、そこで初めて分かったんだ。多くの Dylan ファンにとって、彼がギターを弾いたり、しばらく演ってなかった曲を演るのを聞くことが、どれほど凄いことなのか。

LM:インディアナポリスからニューヨークに戻る飛行機で(一緒になった)若い男がいて、彼は音響や照明など全部を調整するトラックにいたんだ。照明が落ちたとき(最前線にいた)彼らですら、何が起こるのか分かっていなかったんだよ。

LM:全然知らなかったんだ。彼は「スクリーンを全部消すって誰が決めたんですか?」と聞いてきたくらいだ。他の出演者たちのときは大画面で映像を流して、大掛かりな演出をしていたからね。「そういうのは必要ないって Bob が言ったんじゃないかな」と答えたよ。
あと「最初の紹介も必要ない」と Bob は感じてたのだと思うよ。僕らは紹介もなく、曲の間も何も喋らず、帰っていったんだ。その日の動画を見ると、他の出演者たちとは明らかに一線を画しているよね。

LM:近くにいた人たちは Bob だと気付いて、大きな反応があったね。それが観客に広がっていった。少し後ろの方の人たちはしばらく時間がかかったよ。
でも、正直に言うと、僕はステージに上がった時点で Bob に集中していたから、他に何が起こっているのかよく分からなかったんだ。

LM:みんな興奮していたね。Bob は嬉しそうに笑ってた。みんなで別れの挨拶とお礼を言って、ホテルの部屋に戻るために車に乗ったんだ。反応が次々と入ってきてその晩はなかなか寝付けなかったよ。3曲の短いセットでも、Bob Dylan と一緒に演奏できるなんて凄いことだ。でも、反応が続いたのはそれが大きなサプライズだったからだと思うんだ。誰も予想していなかったからね。それで僕は2~3時間余計に眠れなかったよ。

LM:うん。みんなハッピーで、何も気負うことはなかったんだ。ポジティブなことしかなかったよ。

LM:全く分からないよ。Mike はすごく感激して、光栄に思っていたね。

LM:それって、僕が気づいていなかったことの一つなんだ。Bob が Farm Aid で実際に演奏したのは、初回の後、今回が2回目だったんだ。他に出たときは衛星中継だったからね。初回のこととか、Bobがギターを弾くとか、演奏曲目のこととか、そういうことをステージに立つ前に知らなくて良かったよ。

LM:あまり知識を増やす前に、他のショウと同じように臨んで、楽しみたいからね。

LM:両方だと思う。彼は Mike も Benmont も知っているから、彼らと一緒にいるととても居心地が良さそうだったね。Steve Ferrone が彼と一緒に仕事をしたことがあるか知らないけど、Chris(topher Holt) と僕は仕事をしたことがなかったよ。だから、彼にとっては、少なくとも2~3人のよく知らない男たちと一緒に部屋の中で曲を演奏してたんだ。でも、彼はいつも親しくて良い人だったし、僕たちにイライラする感じは全くなかったよ。彼は普通の人に思えたよ、不思議なことに、Marilyn Monroe や James Dean や Elvis (Presley) くらいに有名な偉人と同じ部屋にいたのに。

面白いことがあるよ。本当に最初のリハーサルの後、「天才ってどういうことだろう?」と考え始めたんだ。彼の作品がどれだけみんなに影響を与えたのか、彼の作品の全体的な流れ、彼自身の変革の仕方、彼が人々が(彼の曲だと)気づかないような形で演奏し始めたこと… 彼の全ての仕事を目の前にして考えたんだ。それらはどこから来てるんだろうか?僕がこれまで一緒に演奏してきたアーティストたちの中で、天才とはどういう意味だろうと、初リハーサルの後に考えた唯一のアーティストだ。

LM:曲を演奏したら、彼からいくつか提案があったんだ。普通の音楽的なアレンジのことではなく。「待って、彼は一体僕に何をさせたいと思ってるんだろう?」と、僕が一回立ち止まってしまうような話で。筋は通っているんだけど、えっ、何?という感じ。Bob が求めていることを Bob の方法で表現しているのだけど、普通の音楽の作り方から離れて、考えさせられたんだ。

LM:Bob が来る前に、バンドとして一回通して演奏したと思う。でも、Bob が来てからは、彼が演りたくなかったのか、あるいは我々がそこまでたどり着かなかったかだ。

LM:そういう話は何も聞いていないよ。でも、そもそもこの話も1ヶ月前にはなかったけどね。

【Depot Street: vol.298】2023年10月11日 翻訳:Shigeyan

当日演奏されたのは “Maggie’s Farm” “Positively 4th Street” “Ballad of a Thin Man”の3曲。紹介もなく照明の落ちたステージに登場した Dylan とバックバンド。挨拶もなく演奏を始め、淡々と3曲を披露し、約17分の演奏を終えるとやはり挨拶もなくステージを降りました。この奇跡の瞬間に立ち会えた観客がただただ羨ましいです。

驚いたことに Dylan はエレキギター(Fender Telecaster)を演奏。ソロも聞かせてくれました。Mike はストリングベンダー(ペダルスチールギターの様な音が出せる装置)付きの Fender Telecaster だけで3曲を演。”Maggie’s Farm”ではなんと Dylan と同じマイクでコーラスをつけるという、昔では考えられなかったシーンも。Benmont はヤマハのシンセサイザー S90ES とハモンドオルガン+レスリースピーカーで曲に彩りをつけていました。Steve が叩いていたのは愛用の Gretsch のドラムでしたが、ヘッドに The Dirty Knobs の文字がプリントされたものではなく Gretsch のロゴが入ったものに変えてありました。