something big
 Steve Ferrone Drum Clinic Report
2008年 9月 15日 (月) 14:00〜 @ 渋谷 Eggman レポート by Shigeyan


今回の第一報を知った際にまず思ったのが、「ドラム・クリニックってどんな感じなんだろう?」という素朴な疑問です。私も一応ギタリストの端くれですが、ギター・クリニックの存在は知っていても、行ったことはありません。ましてや、ドラム・クリニックなんて…。テクニカルな話になるとキツすぎるな、と思いながらも、きっと楽しめるだろう、と漠然とした期待を持ちながら会場に向いました。

このドラム・クリニックは、Gretsch社の125周年記念イベントという位置付けでした。そのため、開演時間となると、Gretsch社長(Fred Gretsch)が登場し、挨拶とともにスライドが上映されました。同社のドラムは一般的知名度は高くありませんが、"Broadkaster"のドラムセットの写真が写されたときには思わずニヤニヤしてしまいました。何てったって、Fender Broadcasterの名前をTelecasterに変えさせた張本人ですからね。同社の歴史とともに、Chet AtkinsやBrian Setzerなど、ゆかりのあるミュージシャンの逸話が次々に紹介されました。

しかし、観客たちがSteveの登場を切望しているのは明確でした。Steveが登場すると、後方の立見席まで一杯となった観客一同からはすごい歓声が上がりました。白のスーツで着飾ったSteveは、その歓声に応えるかのように、ポケットからカメラを取り出して観客の写真を撮ったり、「今日は日本では敬老の日なんだよね。でも、“Gretsch Ferrone day”とさせてもらうよ」などとジョークを連発するなど、冒頭からサービス精神が旺盛です。

「あまりソロはやらないんだけど…」と前置きしながら、まずはドラム・ソロを演奏しました。幸いなことに、ドラム・セットの真前の最前列に座っていたためもありますが、第一印象は、とにかく音圧が凄いことです。そもそも、先月までTP&HBのツアーで何万人もの聴衆を相手に叩いていた人が目の前で叩いているということ自体が信じがたい体験です。

次いでは、ドラム音源のみを除いたものに合わせてSteveが叩く(=ドラムのカラオケ)形式で、自身のソロ作から"Woody Creek"、"CC & 7"、"It Up"、"Steve's Strutt"の計4曲を演奏しました。ガイド・リズムなどを全く聞かず、本当にカラオケだったのですが、"Woody Creek"のゆったりとしたイントロや"It Up"のキメの連発では正確無比なリズムでバッチリ合わせるのが圧巻です。"Steve's Strutt"については、「TVのヒーローにはテーマ曲があるよね?この曲は僕のテーマ曲なんだ」と語った上で演奏していました。

強く叩いているようには決して見えないのに、この音圧は何なのかと思っていましたが、その秘密は続く質疑応答コーナーでのフロアからの質問で次々と明らかになるのでした。レギュラー・グリップ(ドラムスティックの握り方)でスティックを左手の親指と人差し指の間にはさみ、手首のスナップを絶妙に使ってスティックさばきを行なっていることや、昔からバス・ドラムのビーター(ドラムに当たる棒の部分)のバネを強く調整して脚力を鍛えていたため、レコーディングをしてもバスドラムの音量が均一だとプロデューサーから言われたことなど、ドラマーにとって実践的な内容でした。

しかし、このクリニックはドラマーたちだけの時間ではありませんでした。音楽に対するSteveの姿勢、それが一番印象的でした。「自分の全てを、シンガーとオーディエンスに捧げること」「エゴを捨てること」「メトロノームのビートとgroove(ノリ)とは違う。James Brownのレコードでそれを教えてもらった」と、Steveの人生観が伺える発言のオンパレード。この姿勢を自ら「Zen (禅) drumming」と呼びながら、「自分がイメージするようにドラムを鳴らしたいと思うように考えるのがZen drummingなんだ」と語っていました。華麗なキャリアとテクニックを持った上でのSteveの発言ですから、その言葉の重みは並大抵ではありません。具体例として、「コンサートで"You Wreck Me"を叩くときには、Tomが"You wreck me, baby... ♪"と歌うのを頭にイメージして、それで曲始めのカウントをするんだ」という、TP&HBファンにはたまらない話も挙げていました。

ドラミングはもちろんのこと、Steveの人柄に聴衆一同が深い感銘を受けているのは、その雰囲気から明白でした。フロアからの質問にはかなりディープなものが多かったですが、それらにも快く応じていました。自身のCDのクレジットでボーカリストのクレジット(Alex Ligertwood)が抜けているエピソードを面白く語ったかと思うと、そのCDを質問者にプレゼントしたり、"If I Lose This Heaven"(Average White Band 『Cut The Cake』収録)では質問者とツイン・ドラムで共演したり、"Beginning Again"(Brian Auger's Obilivion Express 『Straight Ahead』収録)の叩き方についての質問については、16ビートのフレーズを懇切丁寧に説明、ゆっくりと演奏しながら、「これをレコーディングした頃は、演奏したものをそのままレコードにしていた時代だったよ」「この曲で一緒したコンガ・プレイヤーは素晴らしい」「これ、ゆっくりだと叩きにくいんだよ」など言った後に超高速のバカテク・フレーズを叩きまくる!あまりにも凄くて笑ってしまうようなフレーズを披露し、一同は思わず拍手喝采するのでした。

あまりにも圧倒的な時間が長く続いたために、最後に用意された松下誠(g)、高水健司(b)とのセッションでは「もうお腹いっぱい」という気持ちがなきにしもあらずでした。しかし、Stevie Wonderの"Misty"などのナンバーを通じて、SteveがEric Claptonのライヴ・アルバムなどで披露していた手癖フレーズがしこたま聴けたのは、個人的にはニヤニヤものでした。途中でスティックを落として高水健司に拾ってもらう、というハプニングも、日頃の完璧無比さを考えると、妙に微笑ましかったです。

このようにして、ドラム・クリニックはあっという間に終わりました。終わった後には、何ともいえない心地良い余韻に満たされていました。世界の最高級のドラミングとその音楽人生哲学をたっぷり味わったから他になりません。このような至福の瞬間を他の多くの人にも体験してもらうためにも、この企画を日本で是非また行ってほしいものです。

japanese fan site mail magazine facebook
Here Comes A Heartbreaker! since 1998 Depot Street since 1999 Heartbreaker's Japan Party

Runnin' Down A Dream  since March 11, 2008 copy right (c) 2008-2015  all rights reserved.